上田勇一 Yuichi Ueda
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市瀬克己(建築家)   2010.04

せんのむこう

上田君から絵を描いていると聞かされたのは、大学時代も折り返しに入った頃であったと思う。
この頃はたいしたヴィジョンのない、いってみれば遊びに来ているような学生も多かった。
私はといえば、毎日の時間のほとんどを授業と課題制作に使い果たす、そんな日々をおくっていたものだ。
そんなある日、暫く学校には来ていない様子だった彼が、久しぶりに私の前に姿を現した。
そして彼の口からは熱いコトバが語られる。

「自己をいかにして表現するべきか」

このような問いを自らに発し、もがいている姿に私は衝撃を受けたものだ。
この頃の絵というのを私は鮮明に覚えているのだが、情熱の発露ともいうべき赤と朱がカンバスの中を蜷局を巻いて今にも燃え上がらんとしていたのを思い出す。
その後の彼は、何とかしてその膨大なエネルギーを表現しようと巨大なカンバスを相手に格闘したり、様々な人々と語らう中でシルバーポイントと出会う。
やっと自分に合った表現を見つけたのだと眼を輝かせて興奮したコトバを聞きながら、
私は板の上に刻まれた銀の線のカタマリに目を向けた。
真っ白い壁に掛けられたそれは、遠目には朧げな姿をしていた。

古の巨匠達が活躍した時代のカケラ。

技法だけを見ればそんなコトバが思い浮かぶ。
私はそっと絵に近づいてみた。
そこには細かい線が無数に折り重なる、霧のかかったような世界が広がっていた。
だがその折り重なった線の一本一本に、執念とも云うべき彼の情熱があることに気づいたのだ。
一滴の雫が岩を削るがごとく、一心に瞑想し、道を見出だそうとする修験者のような彼の姿を一瞬見た気がした。

それ以来変わらず静かに燃え続ける情熱は、ついに郷里において認められ、県立美術館での展覧会へと続いた。
上田勇一という画家のコトバを聴くために集った大勢の人々の前で、自らのアイデンティティについて語る姿を見ながら私は密かな感動を噛み締めた。

彼の作品が持つ、その物静かな佇まいに秘められた情熱をおもってみてください。
その無数の線の奥にある情熱を。

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